●整備工場
L:整備工場 = {
 t:名称 = 整備工場(施設)
 t:要点 = 整備士,I=D群,分解
 t:周辺環境 = 工場
 t:評価 = 住みやすさ0
 t:特殊 = {
  *整備工場の施設カテゴリ = ,,国家施設。
  *整備工場の位置づけ = ,,{建築物,工場}。
  *整備工場の設置 = ,,取得した藩国。
  *整備工場の面積 = ,,1000m2。
  *整備工場の構造 = ,,1階建てとする。
  *整備工場の整備補正 = ,,整備、評価+10。
 }
 t:→次のアイドレス = 大整備工場(施設),兵器の改造(イベント),艦船整備ドック(施設),整備猫(猫士専用職業)



アメショー、鍋ショー、ペルシャ、サイベリアン……
鍋の国がI=D開発国家だったのは随分と昔の話になってしまっていた。


 しかし、しかしである。


鍋の国は遅れていた宇宙軍計画を急ピッチで始動し、ついに宇宙戦艦の開発に成功したのである。


 宇宙軍を開発、維持するには様々なモノが必要であった。特に必要なのは開発後の戦力維持、つまり整備能力であった。なんといっても宇宙を駆ける星の船である。今までなかった空飛ぶ飛行機(I=D)である。
 これまで鍋にあった機体、船とはまた違ったものであり、そして今までよりも綿密な整備能力が必要とされた。 
 だが鍋の国には整備士は数少なかった。整備士がいない……というわけではないのだが、職業組織的にはいないのであった。
 その為、これまでは整備のたびにアイドレス工場の操業を中止し、他国から整備士を招聘し応援を受けた上で整備を行っていた。


 だが宇宙軍の開発により宇宙用の機体を作り始めた今、整備のためにアイドレス工場を止める事が出来なくなった。
このままでは整備が追いつかない…
 そこでアイドレス工場が活動を再開したと同時に整備工場も建設するという事に決まった。
 必要なものがなければ、作ればいいのだ。


 整備工場の建設が求められたのは、整備以外にも雇用と技術継承という二つの問題があったからだ。そこでこの二つの問題をそれぞれ【な】【べ】の頭文字を使ったコンセプトを掲げ、解決に向け取り組み始めた。

 【な】
 なんか大変な時でもどんな時でも整備工場は稼働するよ! アイドレス工場が動かせない時でも整備工場を動かす事によっておばちゃんを始めとする工場の働き手達が職を失うような事をカバーするの!


 【べ】
 ベルトコンベアーを動かして新しい機体を作ることも大事だけど、鍋の国には既存の機体も数多い。アメショー、鍋ショー、ターキッシュバン。さらにアビシニアンや上田虎雄号にT−STSなどの機体が保管されている。そんな機体は倉庫でホコリを被ったまま。アビシニアンはまだしも他の機体はただ置いてあるだけ……。そんなの勿体ないジャン!腕がなまらないようにこの子たちで練習するよ!



 【な】雇用問題
 アイドレス工場で製造が再開されたとはいえ、いつ再び停止する事になるかわからない。停止した時の雇用対策として整備工場が働き口となる事が求められた。

 国が保有するI=Dや艦船はいつもどこでも使われるとは限らない。それこそ最近の鍋の国の編成はアビシニアン1機に舞踏子たちが乗りこむという形が多く、整備を行うとしても毎ターン1機のみを整備するだけになってしまう。もちろん今後しばらくは宇宙機の整備に追われることだろう。だが人々は宇宙が、NWが平和になるために宇宙機を作っている。そこで国の技術力を向上し、宇宙計画で高めた整備能力を維持向上するための方策が練られた。

そもそも、整備対象はI=Dだけではない。それこそ農業機械や車、駅鍋由来の電車に交通の要の鍋バス。乗り物にこだわらなければ、I=Dの整備だけにこだわる必要はない。仕事を選ばなければどんな整備のお仕事だってある。眼鏡に実用性、機能美、レンズのキラメキ、トキメキを求めるのが当然のごとく、整備工場の役割をI=D、艦船の整備だけに留める事を鍋はしなかった。
それに専門分野にこだわり過ぎるのではなく、広い視野で整備の事を学ぶ方がいい。それこそいつもお仕事あればおばちゃんだって若者だって色々助かるのである。整備工場で学んだ技術や知識を広く一般の機械整備に役立てることで、国全体の技術向上に繋がるのだ。
ちなみにさすがに鍋は鍋職人、眼鏡の修理は眼鏡屋さんに任せている。そこは専門の職人が手を入れたものでないと国民が納得しないからだ。


 【べ】技術継承
 そしておばちゃんたちが持つ研磨技術を始めとした数々のI=D開発技術を受け継ぐ若者の育成も急務であった。
 技術の継承が遅れているのではないか?
 将来的を見据えて技術を伝えていく必要があるのではないか?
 そんな昨今の事情を見据えて、整備工場ではただ置かれているという状況であったI=D群をそのまま放っておくのではなく、ベテランおばちゃんの指導の下で分解整備され、若者への研修が行われているのであった。



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「ほら、そこ! 手元がお留守になってるよ!!」
 おばちゃんの声が聞こえる。
「おい、そこのボウズ! そこは五番スパナを使え!!」
 そして親方の声。
「は、はい、すぐに!!」
 親方の声に負けないようにと気合を入れて大声を出す。そして僕は指示どおりに五番スパナを手に持ち、規定通りの作業を行った。
「まったく、最近の若い者はなっとらんな」
「あらあら、親方さんも昔はああだったんでしょ? みんな最初はあんなカンジじゃないのかねぇ」
「いやぁ、まぁそうですがね。俺が引退しているうちにこうも、ダメになっているとは思ってもいませんでしたよ」
「まぁねぇ。私達もご近所鍋ネットワークで整備工場ができるっていう話を聞いて駆け付けたけど、やっぱり私達がいないとダメなのねぇ」
 親方とおばちゃんの声を聞きながら僕はI=Dの分解を続けた。

 今日はおばちゃんと親方とダブルの監視でいつも以上にヤジが飛んでいる気がする……。なんでも僕たち新人の研修の為の研修とはいえ、国にあるI=Dを分解整備するのである。責任者の数を増やし、厳重な……。
「あらあら」
「う、え、お、おばちゃん!?」
 いつのまにか横におばちゃんが来ていた。
「ちょっと、あなた。そこの装甲板叩いてごらんなさい」
「あ、はい」
 おばちゃんの言う通りに分解され、影も形もなくなったアメショーの装甲板を叩いてみる。

 カンカンガァン!

「え、あれ?」
「やっぱり、そこ、異物が入り込んでいるわ。もしかしたら、ほこりが溜まっているのかもしれない……除去した方がいいわね」
 おばちゃんはそう言うと腕をまくり、僕を見て笑った。
「ただボーと見ているだけじゃダメよ? こういう作業は見て盗むの。おばちゃんだってもうあと数年もすれば年金生活だからね。鍋の明日を担うのはあんたたちなんだから、しっかりと覚えるんだよ」
「は、はい!」

 おばちゃんはどこか嬉しそうに笑うと装甲板の分解に取り掛かった。その姿はどこか実家の母親を連想させるものであった。

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「親方、政庁の方から、資材のリストが来ました」
「おう、見せてもらうぜ」
 
眼鏡のよく似合う若い整備士の肩越しに、親方はどれどれとリストを覗き込む。

「政庁の連中も本腰を上げたみたいだな。注文以上にいい資材を用意してやがるぜ」
「そうですね。宇宙計画から色々と本格的になってきていますのでやはりその影響ではないでしょうか?」
「それもあるだろうが、今、必要な事を必要なだけするっていう事だろうなぁ」
 
「そういえば、今度うちの工場でも避難訓練を行うそうですよ」
「まぁ、以前あっちの工場、空襲があったからな。国も慎重になっているんだろ。入口の警備も最近はしっかりしてきているしな」
「親方は夜工場に来ると大体警備の人に呼び止められますよね」
「まったく、仕事熱心で良いこった」

この親方、昼は明るいのであまり気にならないが、夜になると顔が怖く見えることで有名である。
バツの悪そうな顔をして軽く凹む親方。それを見てあははと笑う声を聞いて顔をあげた。
 
「よし、若い連中がしっかりやっているかチェックしに行くぞ。抜き打ちでチェックしてやらんとな!」
「はいっ、お供します!」
「ああ、今日のお昼の鍋なんだが」
「はい、親方の好きなキノコも用意しています」
「おう、若い連中の為にほかのも多めに用意しておいてやってくれ」
「はい!」

お昼の鍋を楽しみに、整備士たちは今日も工具を手にするのである。


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 鍋の国の工場にはある問題があった。それは空襲である。アイドレス工場は以前に破壊されており、隠蔽を行った後にも狙われていた事実があった。
 それを考えると整備工場が狙われる可能性も、高い。そこで整備工場も同様に隠蔽して建設することになった。
 整備工場を隠蔽させる方法として、アイドレス工場と同じくアイナベ島に、という意見があったが、同じ場所にするのも危険だという意見もあり、建設場所に悩んでいた。
 そんな中、鍋の国に大量の植物が繁茂し始めた。その植物の対処問題を検討している時、全ての食材を鍋に放り込むかのごとくの名案が出てきたのである。
「森の中に整備工場を隠せばどうでしょうか?」

 森の中にメインの整備工場を隠す。それは繁茂により大きく育った大樹を残し、周りの下生えを伐採し、そこに工場を建てるという事であった。 これにより木を減らして従来の鍋の国程度まで密林を調整しつつ、整備工場を隠す事が出来るようになる。
そんな訳で整備工場は鍋の国の蓋下地方の北西部分に建設が行われた。場所をアイドレス工場の近くに配置したのは、おばちゃんを始めとした整備員の通勤が不便にならないようにという配慮からだった。

 民間の整備工場とは別に、軍の整備工場は森に隠されている。表向きには農業機械、車などの整備工場として登録されており、その正体を知っているのは政庁や整備工場で働いているごく一部の人間と限られている。
 その整備工場を有する広大な敷地の端には、実際に農業用機械などの整備工場も併設されている。I=Dの整備工場は中心部分にあたる森の置くに建設されおり、その姿は大樹で空から見えないように隠されている。
 
 工場のセキュリティシステムは通常の認証システムに加え独特のものがある。もっとも重要な部分の整備を行う区画に入るには、その独特にシステムを通過しなければならない。それは暗証番号でも指紋認証でもない。それは人の声だ。
入室したい者は入り口にあるインタフォンに向かって名前と何か一言を告げる。中にいる人がその声を聞いて確認し、さらにモニターで本人と確認したらロックを外し扉を開けてあげるのだ。
 工場の警備には警官や追跡能力に長けた特殊部隊員でもある鍋の歩兵が派遣されている。彼らは治安のプロであり、鍋の平和を守ってきた者達である。彼らの治安能力により整備工場は今日も守られている。




緑が増え、何だかのんびり暮らしていた鍋の国は、宇宙軍に続いて整備工場が作られ急に慌しくなった。

だが忙しく働く人々からは、確かな活気が感じられた。


(文:銀内 ユウ、藤村 早紀乃)
(絵:背景/矢上ミサ、八守時緒、人物/田鍋 とよたろう)

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